高松に帰っていたときのこと。
夕方、トイレに入っていたら、 ピンポンピンポンと玄関チャイムを連打された。
間をおかず、「おばちゃん!おばちゃん!」と窓を叩く音が。
隣の子どもの声である。
隣の三兄弟は週末や放課後たまに遊びに来るのだが(学校が遠いので近所に遊ぶ友達がいない)、その日は様子がちがった。
いったいどーしたと思い玄関を開けたら、中1の長男が泣きながら立っていた。
雨が当たらないように、両手の平で何かを包み込んでいる。
ハムスターである。
こないだ、自慢げに見せにきたハムスターが手のなかで上向きになってヒクヒクしている。これはまずい。
「ポップちゃんが…ポップちゃんが…」
エグエグ泣きながら状況を説明する長男。
概要はこうだ。
昨日からあまりごはんを食べなくなった。
学校から戻ってきたらかごの中で動かなくなっていた。
自分以外は家にいないので、どうしたらいいかわからない。
経験上、ハムスターがなにかとすぐ死ぬ生き物であることは知っていたので、これはダメだろうと思った。しかし、重要なのは長男がこの状況を受け止めきれるかどうかである。
とりあえずハムに対する心臓マッサージを長男に教え、近所の動物病院に駆け込むことにした。
受付で「うちはハムスターはみれません」と言われたが、側にいたお客さんが「御厩のアシルならみてくれますよ」と教えてくれ、お礼を言ってそちらへ行くことにした。
車内でハムを励ましながら心マしたりなでたりしている長男。
しかし、ハムは痙攣して失禁し、動かなくなった。
なんとかアシル動物病院に到着し、「ハムスターの急患です」と言ってすぐに診てもらった。
長男が先生にハムを託した時、すでにハムはかたくなっていた。死後硬直早すぎである。
「これは…もう死んじゃってますね。」
もうどうしようもない、もともと弱い子だったのかもしれないと先生に説明され、そのままハムを両手に包んで連れ帰った。
帰って長男と一緒にエンゼルケア(木箱にタオルを敷き寝かせた)を施し、隣のお父さんが仕事から帰ってきたので、状況を説明した。
その夜。
19時頃にまた長男がハムの亡骸とともにやってきた。家族が用事(バドミントンの練習)で出かけ、誰もいなくなったのだとか。
みんなが帰って来るまでうちでいてもよいとオッサンの許可が出たので、ハムと一緒に家族の帰りを待った。
長男は晩ごはんにカレーを食べていたが、オッサンの作った焼そばも平らげた。悲しみの峠は越えたようである。
時々、金ちゃんがハムの匂いを嗅ぎにきた。
オッサンと長男は「最後一緒におってやったんだろう。」「うん。早く帰ってきてよかった。」と男同士の会話をしていた。
ハムスターの寿命は2年。
ポップちゃんは飼い始めて半年だったらしい。
在りし日のポップちゃんとビビる猫兄弟
「一緒にいてくれてありがとうございました。」ときちんとお礼を言って長男は帰っていった。
これも勉強である。
小さな生き物の命の儚さと尊さを学んだことだろう。
次男と三男もショックを受けただろうな。
次の日。
自転車で走りまわる三男(小2)に聞いた。
「ハムスターどうした?」
「死んだー!」
と言い残し、走り去っていった。